筈見一郎著 「猶太禍の世界」00
はしがき
「世界の公敵猶太を敗れ」
「葬れ国際秘密力を」
「世界を猶太禍から解放せよ」
こうしたスローガンが、今や、極東は日本のあらゆる人々の耳朶*(じだ)を痛烈に打たねばならぬ時代が正に到来したようである。時局はこの間にも驚くべき急テンポを以て驀(ばく)進し、総べての旧体制をぶち毀わして仕舞わねばやまぬ状勢である。
*耳朶を打つ:鋭い音が聞こえる、耳打ちする
しかも日・獨・伊三國同盟はその敢然引受けた世界新秩序、それぞれの分野に於ける共栄圏を形成すべき重大使命を果たすために、有史以来嘗つてなき素晴らしくでっかい道標となつて、欧亜二大洲に帰ってがっちりと基脚を据え、太平・大西の両洋をぐっと睨(にら)んで空高く見上げるように聳(そび)え立つている。
彼の猶太思想のでっち上げようとして完成の前に敢えなくも崩壊したと謂われるバベルの塔も、これには到底威力が及ばないことが、やがて実証されるのではあるまいか。そこへ、頃者(けいしゃ)、ソ連はその建国以来の外交に百八十度の展開をなして、いきなり時代の要求を隼のように俊敏に掴(つか)んで、日本と中立条約を結ぶに至った。
抑も此処に如何なる意味が内包されているだろうか?どういう因果関係があるか?
謎のソ連の本質に変化を来したのであろうか?最近の猶太とコミンテルンとの関係如何?顧みよ、如何にレーニンの跡を襲う(継ぐ)べき筈のトロツキーは失脚して再起が出来なかったか?なぜスターリンがソ連を牛耳るに至ったか?
どうしてトハチェフスキー事件*が起ったのだろう?
*トハチェフスキー事件:
ソ連侵略をもくろんでいたヒトラーは、ナチス情報機関に命じて、赤軍の至宝トハチェフスキー元帥、ヤキール大将らが、実はドイツ参謀本部のスパイであるという偽の証拠を捏造させ、それを故意にチェコのベネシュ大統領に洩らした。ベネシュは恐らく善意から、でっちあげとも知らずこれをスターリンに手渡し、ヤキール、トハチェフスキーらは逮捕され、銃殺され、これに端を発して三万人に及ぶソ連将校が粛清され、その結果、独ソ戦初期のソ連軍大敗北の原因となった、といわれる事件。
スターリンはナチスの偽造文書に騙されるどころか、自分の秘密警察(NKVD)に命じて、ナチスの情報機関(SD)やゲシュタポと協力させ、進んで陰謀でっちあげに一役買ったと言われる。
それよりも、清朝はなぜ倒れたか?
支那事変と猶太禍とは、どんなつながりがあるか?
今や、ドイツは何故未曽有な深刻極まる大規模の徹底的なポグラム(猶太人狩り)を飽くまで遮二無二遂行しようとしつつあるか?
なぜ自由主義や民主主義がそんなに可(い)けないのか?
第一次世界大戦は誰が製造したか?誰の陰謀で起きたのか?
今次の戦いの真の原因と目的は?
本書は以上やその他を説かんとするものである。
何故に枢軸の全体主義はイデオロギーに於いて反枢軸の民主主義と、枘鑿(ぜいさく:四角いほぞと丸い穴)相容れないのか?
それには特にヒットラーのマイン・カンプ(我が闘争)以後の新しい思想発展をも検討する必要がある。
本書は私の最近数年間の苦心の結晶で、そうしたアムビシアス(野望的)な企てにも突入を試みた。果たして何處まで読者を満足させるであろうか。私の力の足らぬところは前もっておゆるしを只管願って置く。
昭和十六年五月
筈見一郎 謹識
現代ナチスのスローガン
「猶太人は我等の禍である」
Juden Sind unser Unglück.