帝國公民教育協會編 教育勅語のお話(昭和9年(1934年)3月20日発行)現代仮名遣い版

教育勅語

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はじめに

皆さんも知っておられるように、十月三十日は教育記念日であります。どこの学校でも式をいたします。皆さんは此の日に学校でどんな式があるかを、一人のこらず知っていましょう。この日は今から四十四年前、明治二十三年十月三十日に、今の天皇陛下のお祖父様にあたらせられる明治天皇様から、私たち日本國民のために教育勅語を下し賜った、忘れてはならない日であります。祝日や記念日などには、きっと校長先生が勅語を奉読なさいます。この勅語は皆さんが学校に居る間も、学校を出て一人前の人になった時にも、守らなければならない心得や、又行わねばならぬ道をお教えになっています。私たち日本國民は、明治天皇様のこの有り難い御心を、一日も忘れてはなりません。

今度皆さんに勅語をさし上げることにしました。これは勅語の有り難いお訓(おしえ)をよく知って、しっかり胸にしみこませて、毎日毎日行っていただき度いためであります。この勅語は壁にかけておくなり、机の上に立てておくなりして丁寧に取扱い、決して粗末にしてはなりません。そして朝夕これを奉読して、皆さんが一人のこらずよい日本人になっていただき度いと思います。

日本の天子様は神武天皇様をはじめ奉り、代々の天子様はどなたもお偉いお方ばかりでありました。中でも明治天皇様は大そうお偉い天皇であらせられまして、日本よりも何倍も何倍も大きい支那やロシヤと戦って、大勝利を得ることが出来ましたのも、明治天皇様がおえらかったからであります。皆さんもよく知っているように僅かの間に、台湾や朝鮮や樺太や南洋の島などの人々も我々の同胞になりました。今では世界でも強い強い立派な國となっているのであります。しかし皆さんはこの上なおしっかり勉強して、日本をもっともっとよい強い國にしなければなりません。皆さんが学校へ行っている時の心得や、お家にいる時の心がけや、又大きくなってから世の中へ出てふまなければならない正しい道をお訓(おし)えになったのがこの勅語であります。ですから勅語のありがたい御思召をよく守って、良い日本人となりましょう。そしてどこまでもどこまでも日本の國を栄えさせて行きましょう。世界に二つとない大日本帝國のために、しっかり働きましょう。御國のためにつくしましょう。

これから此の勅語のありがたいおこころの一つ一つを、わかりやすいようにお話することにいたします。

 

勅語のお話

朕推フニ我カ皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト宏遠ニ德ヲ樹ツルコト深厚ナリ

朕(天子様がご自分のことをおおせられる時の御ことば)推フニ(よく考えてみるに)我カ皇祖(天照大御神をはじめ神武天皇から前の神々様)皇宗(神武天皇からのちの代々の天子様)國ヲ肇ムルコト(大日本帝國という國をおたてになったこと)宏遠ニ(かまえが大きくてながくつづくこと)德ヲ樹ツルコト(忠義孝行の道を臣民の心にふかくうえつけ、よいまつりごとをして國を治め、また臣民をおかわいがりになって良いお手本をおしめしになったというようなことを德という、その德をおたてになったこと)深厚ナリ(まことにおく深くしてかぎりなくあついことである)

 

ここでは日本の國が世界中のどの國よりも一段とすぐれた國であることを申されたのであります。皇室の御先祖が日本の國をおはじめになった、そのもとがまことに広く大きく、そしていつまでも動くことのないようになされたことや、又皇室の御先祖は御自ら御身を正しくさせられ、我々臣民をおかわいがりになって、いつの世までもお手本をおのこしになられたことを、仰せられたのであります。

皆さんも知っているように、天照大御神は皇室の御先祖の神様で伊勢の皇大神宮にお祀りしてあります。初め天照大御神が、御孫の瓊瓊杵尊をこの國にお降(くだ)しになられた時に『豊葦原の瑞穂の國は我が子孫(うみのこ)の君たるべき地(くに)なり。汝(いまし)皇孫(すめみま)ゆいて治めよ、宝祚(あまつひつぎ)の隆(さか)えまさんこと天壌(あめつち)とともに窮(きわみ)なかるべし。』とおおせられました。『豊葦原の瑞穂の國』というのは、此の日本の國をさして言われたものであります。『此の日本の國は自分の子孫が天子となるべき所である。汝(そち)はこれから行って、日本の國を治めなさい。天皇の御位(みくらい)のさかんであることは、天や地と一しょにいつまでもかわることがないであろう。』と仰せられたのであります。此の天照大御神の御言葉が、日本の國の本をなしているのであります。これはまことに遠い昔のことでありますが、それからこの方、今上陛下に至るまで、ご先祖の神様、天照大御神のお血統(ちすじ)がずっとつづいて来ているのであります。是を万世一系と申します。此の万世一系ということは何処の國にもないことで是が日本の國の尊い訳であります。

代々の天子様も天照大御神の御おおせをお守りになって、今日に至ったのであります。申すもかしこいことでありますが、日本の皇室がまことにありがたいことも、日本の國が世界に二つとないいわれのある國であるのも、日本の國がこんなに栄えて来たのも、日本の國のはじまりが世界のどの國のはじまりよりも、全くちがったありがたいものであるからであります。

代々の天子様もご自分の御身を先ず正しくさせられ臣民を我が子のようにかわいがって下さったのであります。私たちが日本の國に生れて、毎日米の御飯が食べられるのは、誰のおかげでありましょう 伊弉諾尊伊弉冊尊*をはじめ奉り、神々様が此の國に米が作られるようにして下さったからであります。そればかりでなく、薬のこと、蚕(かいこ)のこと、皆神々様の造られたものであります。それを思うと、日本の國は何とありがたい國ではありませんか。日本のはじまり程、立派で美しい國は外(ほか)には一つもありません。私たち日本人としては片時もこの事を忘れてはなりません。

*伊弉冉尊の間違いか?

 

我カ臣民克ク忠ニ克ク孝ニ億兆心ヲ一ニシテ世世厥ノ美ヲ済セルハ、此レ我カ國體ノ精華ニシテ、教育ノ淵源亦実ニ此ニ存ス

 

我カ臣民(我が日本の國民)克ク忠ニ(よく天子様に忠義をつくす)克ク孝ニ(よく親に孝をつくす)億兆心ヲ一(いつ)ニシテ(たくさんの人が心をあわせて)世世厥ノ美ヲ済セルハ(神武天皇からこの方代々臣民としての美(うる)わしい務(つとめ)をなしとげて来たのは)此レ我カ國體ノ精華ニシテ(これは日本の國がらが世界中で一番すぐれて立派なところであって)教育ノ淵源(学校で先生が教えることのおおもと)亦実ニ此ニ存ス(日本の國がらのすぐれたところから生れている)

日本の國のもとは世界に二つとないありがたいものであること、又皇室の御先祖は御自ら御身をお修めになり、臣民をかわいがられて、いついつまでもお手本をおのこしになられたことは、先ほど申しました。また私たち臣民の祖先も天子様に忠義をつくし、親に孝行をつくすことを心がけ、みんな心を一つにして、代々忠義と孝行をつくして来たのは、日本の國がらの実に美しいところで、日本の学校で物を教えることのおおもともまた、この良いことがらから出てきたのだということを、申されたのであります。

日本の國は神武天皇が大和の橿原の宮で天皇の御位におつきになってから、今年で二千五百九十四年になります。そのながい間、私たちの先祖も忠孝の心にあつかったのであります。忠というのは天子様にまごころをつくし、孝というのは親を大事にし先祖をうやまうことであります。日本の國では皇室と國民とは一つの大きな家族であって、皇室は我々國民の総御本家であります。そしてつまりは忠と孝とは同じものであって、君に忠義をつくすことは、親に孝行をすることであり、親に孝行な者は、君に忠義なものであります。

昔から『忠臣は孝子の門より出ず』と言われていますが、全くその通りで、楠木正成の子に正行(まさつら)があったようなものです。それで明治天皇様は、『お前たち國民は、ながい間よく天皇に忠義をつくし、よく親に孝行をつくし、大ぜいの者が心を一つにして、代々その立派な行いをなしとげて来たのは、日本のくにがらの大そう美しいところである』と私たち臣民をおほめになられたのであります。まことにありがたいお言葉ではありませんか。そしてこの立派なならわしこそ、教育の大本であると仰せられたのであります。教育と言うのは学校で先生が皆さんを教えみちびいて下さるのを言います。皆さんは明治天皇様のありがたいお心をしっかりかみしめて、先生や目上の人の言いつけをよくきいて、よい日本人となって下さい。

 

爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ

爾臣民(お前たち臣民)父母ニ孝ニ(お父さんやお母さんに孝行をつくし)兄弟(けいてい)ニ友ニ(兄弟は仲よくし)夫婦相和シ(夫と妻とは仲よく助け合い)

『爾臣民』と言うのは私たちにむかってお前たちはと、したしくおよびかけになったのであります。私たちはよくお父さんやお母さんに孝行をつくし、兄弟は仲よくし、夫と妻とはたがいに助けあって仲よくしなければなりません。そうすれば家庭(うち)はなごやかで栄えて行くのだとお訓(おし)えになられたのであります。つまり皆さんのお家庭(うち)のことについて、おさとしになられたのです。

皆さんは学校で先生から、親の言いつけをよくきいて、親を大切にし、親に孝行しなければならないことを、たびたび教えていただいたでしょう。私たちが生きて行くには、少しの時間でも空氣がなくてはならないものであります。しかし空氣は目に見えないし、いくらでもあるので、あまりありがたいものとは考えていません。がもし空氣が無かったらどうなるでしょう。それと同じように、皆さんはもしお父さんやお母さんがいられなかったなら、どんなに困ることでしょう。寒くても着物もきられないし、御飯も思うようにいただかれません。皆さんがにこにことして元氣よく毎日学校に行くことが出来るのも、お父さんやお母さんや、また兄さん姉さんたちのおかげでありますから、空氣の大切さに氣付かないように、親の恩をありがたく思わないのはもったいないことです。今度出来た小学校一年の修身の本にも『オヤヲタイセツニ』という孝行のお話があり、その外(ほか)学校の本には沢山出ていますから、よく御存じのことでしょう。

皆さんの中には、まだ歩くことも出来ないような、小さい妹や弟のいる方もありましょう。小さい妹や弟のお世話に、お父さんやお母さんがどんなに骨を折っていられるかを皆さんはよく知っていましょう。どんな寒い日であっても、お母さんは赤ちゃんのおむつを洗っていられます。赤ちゃんがもし病氣でもすると、お父さんやお母さんはどんなに御心配なさることでしょう。皆さんもまだ小さい赤ちゃんであった時から、こうしてお父さんやお母さんがそだてて下さったのであります。

昔から『父母の恩は山よりも高く海よりも深し。』といいますがほんとうにこのとおりであります。お父さんやお母さんがありがたくないと言うような人は一人もいないでしょう。もしそんな人がいたら、けだものにもおとった人だと言わなければなりません。皆さんは一人残らず、お父さんやお母さんの言いつけをよく聞いていますか。先生やお父さんの言いつけをよくきいても、お母さんの言いつけはよくきかないと言うような方はありませんか。もしそんな方がありましたなら、今日からお母さんの言いつけもよくきくよい子供にならなければなりません。お父さんやお母さんに孝行をつくすには、どんなにすればよいでしょうか。

  • 親のありがたいことを知って、その御恩を忘れないようにしお父さんやお母さんが皆さんをどんなにかわいがって下さるかをよく考えてみましょう。
  • 身體(からだ)を大切にし、しっかり勉強してお父さんやお母さんを安心させましょう。
  • お父さんやお母さんの言いつけをよくきいてお叱言(こごと)を言われないようにするだけでなく、すすんでお父さんやお母さんに喜んでいただきましょう。
  • 弟や妹に親切にし、兄さんや姉さんをうやまって、兄弟仲よくしましょう。

この他にもまだいろいろありますが、これ位の心がけは誰でも持っていなければなりません。

兄弟仲よくするには、たとえばどなたかに、ものをいただいたときは分け合い、お互いに言葉づかいをていねいにして、あやまちはゆるし合うようにしなければなりません。勅語のありがたいおおせをしっかり心にかけてお父さんやお母さんには孝行をつくし、兄弟は仲よくしなければなりません。そうすれば皆さんは誰でも立派な人になることが出来ます。皆さんが立派な人になることが出来るばかりでなく、皆さんのお家庭(うち)はたのしい明るいお家庭(うち)となって、家はだんだん栄えて行くことが出来ます。

 

朋友相信シ恭倹己レヲ持シ博愛衆ニ及ホシ

朋友相信シ(おともだちはおたがいにまごころを以てつきあい)恭倹己レヲ持シ(行いをつつしみきままなことをしないで言葉や行いを正しくし)博愛衆ニ及ホシ(ひろく人を愛しその氣持を大ぜいの人にもゆきわたらせる。)

前のところでは皆さんのお家庭(うち)のことについておさとし下さったのでありますが、ここではお友だちや他人についてのお訓(おしえ)をのべられたのであります。

お友だちは父母や兄弟のつぎに親しいものでありますから、心から信じあって交わらなければなりません。又誰と交わっても身をつつしみ、自分の心をひきしめて、決してわがまま勝手なことをしてはいけません。そればかりでなく、ひろく世の中の人にはやさしい心もちでつきあい、世の中をたのしくあかるくするようにと、おおせられたのであります。

皆さんにはたくさんのお友だちがありましょう。誰でもお友だちのない人はありません。お友だちと一しょにべんきょうしたり、面白く遊ぶ程たのしいことはありません。心から信じあったお友だちのあいだほど美しいものはありません。皆さんはお友だちから親切にしてもらったことがありましょう。又お友だちに親切にしてあげたこともありましょう。お友だちから親切にしてもらった時、皆さんはどんな氣持がしましたか。きっとうれしくて、目に涙がうかんで来たことでありましょう。皆さんの方でお友だちに親切にして上げた時は、お友だちの方でも同じような氣持がしているのであります。私たちが世の中を生きて行くには、お友だちはなくてはならないものであります。お友だちと永くつき合って行くには、おたがいに心から信じあわなければなりません。それには先ずうそを言わないようにしなくてはなりません。お友だちと約束したことはちゃんと守り、悪いことは悪いことだとはっきり言ってとめるようにし、よいことはすすめるようにして、たがいに助け合うようにしたいものであります。又お友だちのあやまちは心からゆるして上げて、いつまでも仲よくするようにしなければなりません。

次には我が身をつつしんで、きままなことをせず、広く大ぜいの人に親切にするようにお訓(おし)えになっています。

わが身をつつしむとは、じまんしたり、人を馬鹿にしたり、目上の人をあなどったり、無駄づかいしたり、わがままを言ったりしないようにすることであります。これは私たちに大そう大切なことであります。少し位のことをじまんしたりしていると、勉強の方も決して進むものではありません。人を馬鹿にするような人は、人からも馬鹿にされて、相手にしてくれなくなります。目上の人をあなどったりすることも、決してよい子供のすることではありません。その外無駄なことにお金をつかったり、わがままを言ったりしていては、よい日本人となることが出来ません。そんな人間が世の中にたくさんいると、世の中はどんなになるでしょうか。皆さんは学校で倹約のことや、お行儀のことについて先生から教えていただいたでありましょう。御飯をいただく時にも、人と話をするときにも、何事をするにも不作法なことをしてはなりません。おじぎもていねいにすることを忘れてはなりません。

そして世の中の多くの人たちには新設にいたしましょう。たとえ見知らぬ人であっても、困っている人があれば助けてあげようと考えるのは、人間の美しい心であります。人に親切にすることは、人の心をなごやかにし、人と人との間をしたしいものにします。人に親切にする心がないと、日本の國はすみよい國とはなりません。この人間の美しい心をますます生かしてゆきますと、この世の中はたのしい生きがいのあるものとなるのであります。

 

学ヲ修メ業ヲ習ヒ以テ智能ヲ啓発シ德器ヲ成就シ進ンテ公益ヲ広メ世務ヲ開キ

学ヲ修メ(学問を身につけ)業ヲ習ヒ(仕事をよくならいおぼえ)以テ(これによって)智能ヲ啓発シ(ちえやしごとをする力をひらきすすめ)德器ヲ成就シ(世の中の手本になるまことに立派な心を持った人になる)進ンデ公益ヲ広メ(なお進んで世の中の為になることを出来るだけたくさんする)世務ヲ開キ(世のためになる仕事を考え出し)

日本の人々がすぐれておれば日本の國もしぜんすぐれて来ます。ですから私たちは、学問を修め仕事を習って、そうしてちえや心をみがいて、立派な役に立つ人間とならなければなりません。又進んでは世の中のためになる仕事をはじめるようにしなければなりません。学問を習って、そして世の中のお役に立つ人間になるようにと、お訓(おし)えになられたのであります。

皆さんは七つとなり八つとなって、一人のこらず学校に入学しました。皆さんがはじめて学校に上がる時には、お父さんかお母さんにつれられて学校の門を入ったでしょう。その時お父さんやお母さんはどんなによろこんだことでしょう。皆さんがしっかり勉強して、立派な人間になってくれるようにと考えない親は、一人もありません。ですからお父さんやお母さんは、皆さんに勉強するように、勉強するように、とおっしゃるのであります。

日本の國ではどんな田舎へ行っても、学校のないところはありません。どんな山奥へ行っても、村で一番大きな建物は学校であります。皆さんもよく知っているように、学校はよい人となるために勉強するところであります。皆さんのお父さんやお母さんは毎日仕事に精出されています。皆さんはお父さんやお母さんのお手伝いをすることも大切でありますが、皆さんの仕事は第一に勉強することであります。ですから皆さんは学校へ行ったら、校長先生や先生のおっしゃることをしっかりきいて、まじめな生徒にならなければなりません。お家へ帰ってからのおさらいも、忘れてはいけません。皆さんはからだを丈夫にするために、元氣よく遊ぶことも大切でありますが、勉強を少しもしないで遊ぶようなのは、大そういけないことであります。勉強は皆さんが立派な人間となるために大切なばかりでなく、前にお話した親に孝行をつくすためにも、世の中のお役に立つ人間となるためにも是非必要なことであります。皆さんがしっかり勉強するには、辛抱して勉強することが大切であります。はじめはがまんして勉強していても、まいにちきちんきちんと勉強していると勉強がほんとにたのしい面白いものになって来ます。

この世を生きて行くには、人間は誰でも働かなければなりません。皆さんも大きくなったならば、色々な仕事を見つけて、働かなければなりません。ですから大きくなってから、仕事をして行く力を養っておかねばなりません。そうして自分一人のためばかりではく大ぜいの人のために働くことを考えるのであります。この大ぜいの人のために働くと言うことを、よく心にとめておいていただきたいと思います。

そして皆さんは学校で覚えた学問をはたらかして、相模の佐太郎みたように村の土橋をかけるとか、栗田定之烝のように海辺に松の木を植えるとか、古橋源太郎のように馬や蚕を良くすることに骨を折るとか、ジェンナーのように疱瘡の発明をするとか、高田屋嘉兵衛のように遠い所へ行って商売の道を開くとか、井上でんのように久留米がすりを拵えるとか、人の為になったり世間の利益になることに骨を折らねばなりません。國を強くするには作物のことに氣をつけて、田や畑からのとれ高を増すとか、商売を盛んにして品物を外國に売出すとかして金をふやすことにしなければなりません。

公益を広めるには公徳を守らなければなりません。公徳と言うのは世間の人の迷惑にならぬように心がけ、尚その上に良いことをしなければならぬというのです。日本人はこの公徳の心が少しおとっているようであります。道に紙屑を落としたり、たんつばを平氣で道に吐いたり、大ぜいの人の目につくところに落書きしたり、公園の木を折りとったり、先を争って電車や汽車に乗ったり、こんなのが少なくないようであります。これは日本人としてまことに恥ずかしいことであります。

いつも、自分も大ぜいの中の一人であると言う考えを持っていて大ぜいの人の迷惑になるようなことは、決して決してしてはいけません。少しでも人様のお役に立ちたい、少しでも世の中を住みよい美しいものにしたいと思う心を、しっかり養ってゆかなければなりません。皆さんが大きくなった時は見違えるような美しい世の中にして頂きたいと思います。

 

常ニ國憲ヲ重シ國法ニ遵ヒ一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ

常ニ(いつも)國憲ヲ重シ(國のおおもとのきそくを大切にし)國法ニ遵ヒ(いろいろのきそくどおり行い)一旦(ひとたび)緩急アレハ(國が立つか立たぬかと言うような時があったら)義勇公ニ奉シ(正しい勇氣を出して天子様や國の為に尽して)以テ(そうして)天壌無窮ノ(天や地のように何時までもはてしのない)皇運ヲ扶翼スベシ(天子様の御威勢が益々御さかんになるようにたすけねばならぬ)

私たちは日本の國の大もとの規則である皇室典範大日本帝國憲法とを大事にいたし、その他、我々が是非とも守らなければならない規則にはよく従わなければなりません。皇室典範大日本帝國憲法とのお話は小学校の六年の時に聞くことですが、皇室典範天皇陛下の即位のことをはじめ皇室の大切な事柄をきめてある規則で、憲法は日本の國がらの大本を定め、天皇陛下が我が國をお治めになる一番大切な規則であって、家にたとえると大黒柱であります。此の二つが我が大日本帝國として一ばん大切な約束であります。

又もし戦争がおこるとか、その他、國に大事件のおこった時には命を投げすてて天皇陛下の御ため、國のためにつくし、そして天や地がいつまでもかわらないように、天子様の御威勢がいつまでもいつまでもかわる事なくますます御さかんになるように、まごころから御奉公申上げなければなりません。これが私たち國民の一番大切な、一番大きなつとめであると申されたのであります。

私たちはにほんのおお本の規則である皇室典範大日本帝國憲法とをよく守らなければなりません。皆さんが学校に行くと、学校には学校の決まりがありましょう。朝学校へ行ったなら、お天氣の日であれば、直ぐにお道具を机に入れて運動場に出なさいとか、朝鐘がなるとどこに並びなさいとか、何時に勉強がはじまるとか、色々のきまりがあるでしょう。人が大ぜい集まってくらしていくには、誰も守らなければならない規則が大切になってくるのであります。学校には学校のきそくがあるように國には國の規則があります。皇室典範大日本帝國憲法とは國の色々の規則のおお本であって、明治天皇様が明治二十二年二月十一日、紀元節の日に広く世の中におしらせになられたものであります。その他の色々の規則も、國のため世のため私たちのためにあるのでありますから、國のおきてはしっかり守らなければなりません。学校のおきてが守れない生徒はよい生徒でないように、國のおきてや規則が守れなくては、よい日本人となることが出来ません。

そして日本の國に何か事変(こと)がおこったならば、私たちは命を投げすて、天皇陛下の御ため、國のためにつくさなければなりません。日本の皇室は天照大神からずっとお血統(ちすじ)がつづいています。こんなにありがたい國はどこにもありません。そして日本の國は、何千年という昔から、一度も外國と戦って負けたことがありません。何故日本の國はこんなに強いのでありましょう。日本は自分の國よりずっと大きい支那と戦って勝ち、ロシヤと戦っても勝ちました。皆さんは昭和六年の秋におこった満州事変をよく覚えていましょう。勇敢な日本軍の向うところ、敵の兵隊はみんな逃げてしまいました。

それと申すのも、みんな天皇陛下の御稜威でありますが、日本人には、ずっと昔から天皇陛下の御ため國の為には、命を投げすてて戦うと言う忠義な忠義な血が流れているのであります。あの上海の爆弾三勇士のお話を、皆さんはよく知っていましょう。爆弾を抱いて敵の鉄条網の中に躍り込み、わが身をこっぱみぢんにしてその鉄条網を破り、わが軍の進む道を開いたのであります。こんな勇ましいお話をきくと皆さんが大きくなった時、もし日本が外國と戦争でもすることになると、まっ先に勇ましいはたらきをしようと考えないものはないでしょう。それであってこそ、私たちは日本の國民なのであります。こういうように、天皇陛下の御ため國のために命を捧げた偉い人の御霊は、東京の九段坂にある靖國神社にまつられてありますが、ここには畏くも毎年両陛下がご参拝あらせられます。

日本の國がこんなに立派な強い國になったのも、まだ一度も外國に負けたことがないのも、これまでに数えきれないほどたくさんの人が、天皇陛下の御ため國のために命をなげすててつくしたからであります。しかし日本は正しいことを守る國、外國とのつき合いにもなるべくむつまじくすることを心掛けている國でありますから、止むにやまらず、正しいことのために戦ったことはありますが、こちらから戦争をしかけていったようなことは一度もありません。これから後も同じように、万一日本が正しいことのために、戦いをしなければならないようなことがあったなら、日本の國民は一人のこらず、心を一つにしてあくまで戦わなければなりません。そして天地とともに変りない皇室と日本の國のためには、男も女も、最後の一人となるまではたらいて此の國を守らなければなりません。此の明治天皇様のお訓(おしえ)こそ実に日本國民の一番大切な、ゆめにも忘れてはならないつとめであります。

 

是ノ如キハ独リ朕カ忠良ノ臣民タルノミナラス又以テ爾祖先ノ遺風ヲ顯彰スルニ足ラン

是ノ如キハ(まえにいったようなことをよく守り行うことは)独リ(ただ)朕カ忠良ノ臣民タルノミナラス(天皇に忠義なよい臣民であるばかりでなく)又以テ爾祖先ノ遺風ヲ(尚その上に、お前たちの先祖がのこしたよいならわしを)顯彰スルニ足ラン(充分あらわすことが出来るであろう)

「是ノ如キ」とは、前の「爾臣民父母ニ孝ニ」から「天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」までのことを申されたのであります。つまり今まで言ったことをよく守りよく行うものは、実に天子様に忠義なよい臣民であり、又こういうことは、私たちの先祖が、日本の國がはじまってこの方、行ってきたところのものでありますから、これを守るのは先祖をうやまうことであり、先祖ののこしたよいならわしを、大いにあらわすものであるとお訓(おし)えになられたのであります。

ここで私たちが注意しなければならないのは、忠義も孝行も日本の國では、その本は同じであることを、おさとしになっていられることであります。「爾臣民父母ニ孝ニ」から色々とわけて、勅語のありがたいことについて申上げて来ましたが、この勅語の御趣旨(おんこころ)をよく守って、そして之を行うものがほんとうに忠義な臣民であり、ほんとうによい日本人であるのであります。私たちの先祖はみんなこういうことを守り、行って来たのであります。これを守り行うことは先祖ののこしたよいならわしをあらわすもので、忠義も孝行も日本の國では、その本は同じであることをお訓(おし)えになられたのであります。

これをつづめて申しますと、忠と孝さえしっかり守っていれば立派な日本人となれるのであります。私たちは楠木正成や、正行や、乃木大将や、広瀬中佐や、また先にお話した爆弾三勇士などの忠義な孝行なお話をきくと、目に涙がうかんで来ます。何故忠義、孝行の話がこんなに私たちを泣かせるのでありましょう。つまり忠義、孝行は日本人のたましいであるからであります。

前に話した通り、私たちの大日本帝國は三千年この方、万世一系天皇様がお治めになっていられます。今日のように私たちがこんなに幸福(しあわせ)にくらすことが出来るのも、天子様が一心不乱に日本の國をよくして下さったからであります。これが世界にない日本の良いところであります。日本九千万の國民は、みなこの忠孝のたましいによって、かたくかたくむすばれています。何とありがたい國ではありませんか。

 

斯ノ道ハ実ニ我カ皇祖皇宗ノ遺訓ニシテ子孫臣民ノ倶ニ遵守スヘキ所之ヲ古今に通シテ謬ラス之ヲ中外ニ施シテ悖ラス朕爾臣民ト倶ニ拳拳服膺シテ咸其德ヲ一(いつ)ニセンコトヲ庶幾フ

明治二十三年十月三十日

御名御璽

 

斯ノ道ハ(今まで言ったような國民の守り行わなければならないことがらは)実ニ(ほんとうに)我カ皇祖皇宗ノ(天子様の御先祖の)遺訓ニシテ(のこしおかれたお訓(おしえ)であって)子孫臣民ノ(天子様の御子孫や、又私たち臣民のその子孫の)倶ニ(ともどもに)遵守スヘキ所(よくしたがい守らなければならないことであって)之ヲ古今ニ通シテ謬ラス(これは昔に行っても今行っても少しもまちがいがなく)之ヲ中外ニ施シテ悖ラス(日本でも外國でも、どこで行ってもまことに立派な道にはずれないことだから)朕爾臣民ト倶ニ(朕はお前たち臣民とともどもに)拳拳服膺シテ(いつも忘れないように深く心掛けて守り)咸其德ヲ一(いつ)ニセンコトヲ庶幾フ(天子様の御先祖の良いお訓(おしえ)をよく守って、前に言ったように皆の者が立派な國民になりたいものである)

明治二十三年十月三十日

御名(明治天皇様の御名)御璽(明治天皇様の御印)

 

「斯ノ道ハ」とおおせられたのは、「爾臣民父母ニ孝ニ」から「天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」までにいろいろとお訓(おし)えになられたのをさして言われたものであります。つまりこの道は天子様の御先祖がおのこしになったお訓(おしえ)であって、天子様の御子孫も我々臣民も其の子孫も、皆守らなければならぬものであります。この道は又昔も今もかわりがなく、日本の國で行っても、外國で行ってもよい道であるとおおせられたのであります。

それから「珍爾臣民ト倶ニ拳拳服膺シテ咸其德ヲ一ニセンコトヲ庶幾フ」とおおせられてありますが、これは前に言ったように、我々國民の守り行わねばならない道は、昔も今も日本でも外國でも何時何処で行ってもかわりのないものだから、朕はお前たち臣民の手本となってよく守り、そうしてみんながいっしょになって、そういう良いことを行いたいものであるという御趣旨(おこころ)であります。天子様が自分もお前たちといっしょに良いことをしようとおおせられたことは、まことにおそれおおいことであるが、そこが我々臣民をご自分の御子様のようにいつくしみたまう大御心から出たもので、まことにありがたいきわみであります。

日本の國は三千年からの立派な歴史を有(も)っているくにであります。そして世界で日本ほどかがやいているくにはありません。日本の國旗日の丸の旗は、世界のすみずみまで光をなげています。「中外ニ施シテ悖ラス」のこの勅語の御精神をしっかりともって、私達日本國民は日本のために世界のために、働かなければならないのであります。それには先ず私たちは、朝も昼も晩も、まごころをもって勅語の御趣旨(おこころ)を守り、日本の國民は一人のこらず此の勅語の御精神に添うように心掛けなければなりません。私たちは大人も子供も男も女も、みんな力をあわせて天地と共にかわりない日本を、いやが上にも立派な強い明るい國にしなければなりません。

 

想い起こせば明治天皇様がこの御勅語をお下しになってから、もう四十四年の月日がながれております。今の日本はその時分とはくらべものにならない程すばらしく立派な大きな國になりました。台湾や樺太や朝鮮を始め、遠い南洋の人々までも私たちと同じ天皇陛下の臣民となり、この頃では新しく満洲と言うお友達の國も出来ました。これは皆さんのおじいさんやお父さんをはじめ、みんながよくこの御勅語の御趣旨(おこころ)をまもったからであります。この日本の國を尚一層強く立派にすることは、あなたがたのどうしてもなしとげなければならない大きなつとめです。その準備は今からととのえておかなくてはなりません。今の日本の大人たちはあなたがたが一人前になられたときのはたらきに、大きなのぞみをもっていられるのです。それならあなたがたはどうしたらよいでしょうか。お答えは簡単です。今まで申した御勅語の御訓(おしえ)をよく守り行うことです。

よく日本九千万の國民と一口に言いますがこれもあなたがたの一人一人が集まって出来たものです。それであなたがたが一人立派な人になることは、それだけ日本の國がよくなることです。御覧なさい、雨つゆの一滴が集まり集まってあの広い広い太平洋も出来て居るではありませんか。こう考えると片時も油断が出来ないでしょう。

あなたがたは学校を卒業してから色々の道に進まれるでしょうが、いつもその大本の目あては、教育勅語の御趣旨(おこころ)を守り行ってほんとうに良い日本人となることでなければなりません。年中白雪をいただいて雲の上にそびえる富士の山、あの清らかなけだかい容姿(すがた)を見つめて、うまずたゆまず登る氣持ちで進もうではありませんか。

(おわり)