世界の猶太人網(ヘンリーフォード著・包荒子解説)14

6. 言論雑誌界に猶太問題の出現

『我が広汎なる計画は、既に吾人の憧憬する地点に近づきつつあるが、之に向かって非猶太人の各政府を敢て動かしていくためには、所謂大國の出版物の援助により、密に吾人の製造した輿論を以てしなければならない。極めて少数の例外を除いては、すでにすべての出版物は吾人の掌中にある。(シオンの議定書第七條)』

露國の真相発表の不可能

嘗て数年前のこと、アメリカの某大学教授が、露國に視察に赴いたことがある。此の人は啻(ただ)に学会の権威者たるのみならず、明敏な評論家である。彼が露國に赴いた目的は、露國政府の為政者が如何に猶太人を取り扱って居るかということを視察するにあった。彼は露國にあること三年にして一度帰米し、一年の後再び赴いて殆ど一年間露國に滞在した。この前後二回に亘る露國視察を了(お)えて彼の帰國するや、彼はアメリカ國民に向かい露國の猶太問題に関し詳細に報告するの必要ありと考え、頗る周到綿密なる一文を草し、之を合衆國に於ける第一の某出版業者に送付した。此の出版家は親しく此の著者を招致し、殆ど二日間に亘って種々懇談し、大いに実情を聴取して感動する所あったが、遺憾ながら此の論文は出版すること不可能であると謝絶した。依ってこの著者は更に有力なる他の雑誌の発行者に対し掲載方を交渉したが、結局は右同様体よく謝絶された。思うに斯く出版掲載を謝絶されたのは、教授が文筆の才がなかった爲ではなくして、その真因は出版業者が掲載を欲しなかったに因るものである。斯くて此の教授の論文は遂にニューヨークに於ては印刷発行を見ずして終わった。

教授の論文は右の如き結果に終わったが、猶太問題は遂にニューヨークの某雑誌に進入するに至った。猶太人等は極力問題を粉砕し、以て斯かる問題は、現実に存在するものでないと言う主張を、公衆に信じさせようと大いに駁論する所あったことは勿論である。

ここに珍なる現象は大雑誌が -これら大雑誌の経営上の後援者を公表すれば一層興味深きものあらん -猶太問題に関する次の一論文のみを掲載したことである。此の代表的論文の目的たるや、猶太問題なるものが存在しないことを証明しようとするにあったが、公衆は却って該論文の型からいろいろ看破し得たのである。

メトロポリタン誌の猶太問題発表

ウィリアム・ハード(William Hard)氏はメトロポリタン(Metropolitan)と言う雑誌の六月号に、猶太問題について一論文を発表した。ここに於て猶太人に捧げられた賛辞を鵜の目鷹の目にて蒐集(しゅうしゅう)する電信班、通信班がメトロポリタンの発行者を自己の同志として、一般民衆を慰安すべくハードの論文を利用し共鳴したことは、蓋し察するに難からざる所である。

此のハードの論文を熟読すれば、此の論文から幾多の反対の事実を察知し得る。即ちハードが此の論文により一般公衆に知らしめようとしたこと以上に、多くの事実を民衆は察知し得るのである。

ウィリアム・ハードの論文

先ず第一に此の論文に依って猶太問題が儼(げん)として存在することを知り得る。ハード曰く「ロンドン及びパリの社交會に於ては、猶太問題が話題となりつつあり」と、斯く社交界の事を叙述したのは、筆者が此の問題の重要ならざることを示すためであったか、それともハード氏の触接した範囲を示すに止まるものであるかは不明である。次でハード氏は述べて曰く、華盛頓(ワシントン)の某官界に於て、猶太問題に関する一文書がかなり広く観覧されていると。又更に彼はニューヨークワールド紙に発表した彼の猶太問題に関する電報通信のことを述べて居る。ハードの此の論説は些か(いささか)過早(早すぎる時期)に発表されたため、ロンドンタイムスの上記電報通信に関する評論をも加えて発表することが出来なかった様である。併しながら兎に角真正の事実を研究する読者は、此のハードの論説に依って、猶太問題が実際に存在することを看破し得るのである。就中猶太問題なるものは下層社会に存在するものではなくして、寧ろ猶太人の勢力、猶太人の支配権の事実が、最も豊富に存在する社会に於て存在するものであることを看破し得たのである。然り猶太問題は斯くて闡明された -ハードは詳細にこれを確証して居る。彼ハードは、この辺にて論旨を打ち切り、猶太問題が上流階級の人々及び國民的に又國際的に有力なる人々の間に於て、頗る真面目に研究されていることについては述べて居らぬが、此の理由は彼が此の事実を知らないことに依るのであるか、或いは斯かることを叙述するも自己の論説に無益だと思惟するのか、両者中其の一であろう。

之を要するにハードは、猶太問題が存在すること及び猶太問題が研究されて居ること、就中猶太問題を判断して之を説述するに尤も容易なる地位にある人々から研究されていることを、事実として確定したものである。

陰謀観念の存在

此のハードの論説を読んだ読者は、誰しも猶太問題が陰謀的性格を帯びて居るものであると言う印象を受けるのである。著者は曰く「予は徒党的誓約を信じる者にあらず」と世人は斯かる告白を尤も容易に受け入れるであろう、何となれば非猶太人的思考法にとって、徒党的誓約即ち陰謀程軽蔑するものは無いからである。蓋し陰謀なるものは非猶太人の精神がら見れば全然不可能事なるが為である。抑々ハード氏は非猶太人系の人物である、されば彼は如何に高尚なる誓約と雖も、かなり多数の非猶太人を仮令一時たりとも結合させることの困難なことを知って居るものである。元来非猶太人は陰謀を為すの性格を持って居らない、故に非猶太人が徒党的誓約を為すことありと仮定しても、斯かる誓約は一朝にして恰も砂製の縄の如く崩壊するのである。非猶太人は其の血液の中にも又その趣味上に於ても、猶太人の如き団結性を持たない。即ち非猶太人は既に天性上徒党的陰謀観念を毫も有し得ないものである。従って非猶太人は敢て適切なる実証を挙げなければ陰謀などと言うことを信じる者ではないのである。

さればハードが陰謀を信じるの困難なことは容易に諒解し得る所である。然しながらハードは自己の論説を記述する為、猶太問題を論ずる毎に陰謀の観念は常に其の大部分を占めることを、殆ど歩々に(徐々に)承認するの止むなき立場に陥って居る。これ実にハードの論説を一貫する中心観念であって「猶太人の大陰謀」なる表題に於て、既にハードの観念が明らかに表われて居るのである。

猶太問題とソヴィエト問題の関連

著者たるハードは就中詳細に露國内の現象を論じて居る。そして往々にして猶太問題がソヴィエト問題と同様に論述されているかのような観さえある所がある。 -斯かる混淆の妥当ならざることについては、ハードも亦これを熟知する所である、たとい両問題相互が、明らかに相関連するものであっても、此の類似性を人為的に並列して猶太問題の為大いに利用しようとするが如きは、実に奸策と謂うべきである。然しながらハードが演繹した結論は別として其の例証した諸事実は頗る興味多きものである。

露國事情の観察

吾人は先ず第一に露國の事情を観察してみよう。彼の言に依れば、ソヴィエト露國の内閣内に猶太人は唯一名あるばかりであると、併しながら此の一人の猶太人はトロツキーなのである。勿論政府内には尚他にも猶太人が多数いる、ハードの言うのは単に内閣のことのみを指して居るのである。彼は実際の露國の支配者たる委員連のことにも言及してはいない、又トロツキーレーニンの支配権及び本来の勢力たる赤軍についても言及しては居らないのである。露國と同様ハンガリーに於ても亦統帥の地位には単に一名の猶太人が存在するに過ぎない、けれども此の一名とは余人ならぬベラ・クーン(Bela Kun)である。茲に於てか猶太人たるはトロツキー及びベラ・クーンの両猶太人のみなるに拘らず、何故に全ヨーロッパが、ボリシェヴィズムは大部分猶太的色彩を有すと確信し居るのであろうか、という問題に逢着(ほうちゃく)するのであるが、然しこれを以て非猶太人が愚かなる妄想を抱いて居るとすることは、ハードが猶太人の陰謀団結を不可能と為す以上に更に不可能であり、又猶太人の狡猾怜悧なるを信ずるよりは非猶太人の馬鹿なことを信ずるほうが容易であるという理もないのである。

乃ち(すなわち)ハードが述べて居るのは単に一部分のことに過ぎない、即ちトロツキーが露國の第一人者なること及びトロツキーがボリシェヴィズムの権力頂点をレーニンとただ二人で分かって居ること、そしてこのトロツキーが猶太人なることを述べて居るに過ぎない、此の事実は従来何人も否定しない所であって、ブランスタイン(Braunstin)(トロツキーが合衆國内のセント・ルイスに住まい居たる当時の名前)自身すら認めて居る所である。

ハードはさらに述べて「併しながらメンシェヴィキ(Menscheviki)も亦猶太人により指導されていた」と、此のことは実に驚愕に値する事実である。ボリシェヴィキの先頭にはトロツキーあり、メンシェヴィキの先頭にはリーベル・マルトウ(Lreber Martow)及びダン(Dan)あり -これらの人々は全部猶太人である。(ハードの言)

そして又右の両極端の党派と共に又一つの中央党が存在して居る。即ちカーデッテン(Kadetten)である。ハードの言に依れば此のカーデッテンは露國に於ける最強の國民的党派たりしものであって、方今(ほうこん、今は)パリに其の本営を有し、其の党首はヴィナーヴェル(Vinaver)-即ち猶太人であると。

右の事柄はハードが確定した事実である、即ちハードが挙げて居る猶太人等は、露國における政治界の三大政党を率いて居ったのである ――ハードは大呼して曰く、読者よ猶太人等が斯く分裂し或ることに注目せよ、互いに相反目闘争する人々の間に如何にして徒党陰謀が存在し得よう、斯の如き実情を考察する時には、猶太人が露國の政治生活の各期に影響を及ぼすことを寧ろ奇異にかんずるであろう、此の現状は猶太人達が到る所支配権を掌握するに努めるものであるという意見を幾分否定するものではないか、と。

米國事情の観察

然しながらハードの論文の事実に準拠して研究するときは、以上の外なお幾多の教訓を此の論文から発見することが出来る。ハードは合衆國に論鋒を転じて幾多の頗る興味ある事実を確認して居る、ハード曰く、合衆國にはオットー・カーン(Otte Kahn)ありと、然りオットー・カーンは時に合衆國にあり、又時に重要なるインターナショナルの用務を帯びてパリにもあり、又時として彼はロンドンにありて、英國の資本と米國の資本との連絡に任ずることもあるのである -此の連絡のことたるや、広範囲に亘って欧州の政情を相手とすべき企図である。世人はカーンを目して保守派と言って居る、然りある点に於ては確かに保守派である。然しながら或る人物を目して保守派なりと言い、又然らずというのも、要するに世人が観察する視角の大小に依りて異なるのみ。合衆國内の最も保守的色彩濃厚なる人々は、実際に於ては急進的色彩最も濃厚なる人々であるのだ。彼等の動機及び彼等の用いる方法は、諸事の根底に触れようとするものであって、彼ら本来の行動は過激的である。最近の共和会議に於て牛耳を取った人々は、一部の特種経済的利益に依って束縛されて居る人々からは、保守派と称されて居るが、その実彼等は過激派中の過激派であって、既に赤色の舞台を通り越して、今や白色となったものである。若し夫れカーンの背後に如何なる人物があるかを知り、又ハードが何を為し何を企画しつつあるかを、地図に依って示したならば、恐らく同氏を目して保守派と言うものはないであろう、輿論は兎に角として、吾人はハードの論述により、カーンが合衆國にあることを知るのである。

更にハードは「他面にはローザー・バスター・ストークス(Rosa Pastor Stokes) あり」とハードはこれと同時にモーリス・ヒルクイト(Morris Hillquit)を挙げて居る、彼の分類に依るときは、これら両人物は急進派の人である。ハードは此の猶太人の姓名と相殺する為、之に対立してユージーン・V・デヴス(Eugen V. Debs)とヒル・ヘイウッド(Hill Haywood)なる二名の非猶太人の名を挙げて居る。そして彼は此の二人の非猶太人の方が、先に挙げた猶太人よりも過激派として遥かに有力なるものとして居る、然しながらハードも久しく政情の研究に没頭した人であるが、苟も最近の政情を仔細に検討したものは何人も、此のハードの考え方には同意するものはないであろう。デブスもヘイウッドも、其の全生活に於てストークス及びヒルクイトの様に有力な政党を作らなかった、そしてデブスとヘイウッドは寧ろ前二者の勢力下にあるものである。

若し世人にして合衆國に於ける社会主義運動を仔細に観察したならば、具眼の士は恰もハードの論文に於けるが如く、必ずや猶太人の名を見るであろう。ハードが所謂保守党及び急進党の党首として猶太人の名を列挙して居ることは、誠に吾人の深く考えねばならぬ所である。ハードの確定に基づき読者は、合衆國に於ける二大政党の統率者が猶太人であることを認定し得るのである

尚、ハードは「アメリカの労働組合をして反急進派たらしめるため、最も努力し最も統率の実力を有したものは猶太であって、彼の名はサミュエル・ゴムパース(Samuel Gompers)なり」と言って居る、読者は此の事実よりして、アメリカの労働団は一猶太人により率いられて居ることを知るであろう

けれども次に諸君はハードの論文に依って「最強の反ゴムパース職工団即ち連合被服職工組合(頗る強力にして頗る大いなる組合である)は一猶太人シドニーヒルマン(Sdney Hillmann)に依って率いられている」ことを知るのである。

即ち此の米國に於ける有様は、曩(さき)に述べた露國に於けるものと全く趣を同じくして居るものであって、政治的運動の両方面及び此の運動内部に於ける発動力は、共に猶太人の統率下にあるのである。此の事実はハードの本来の意志に反して、ハードが之をその論文の性質上より認めざるを得ない所である。

そして中央党即ちハードの名づける所に依れば「自由中央党」は、中間に位置する総ての人々を網羅するものであるが、此の党内にもジャスティス・ブランダイス(Justice Brandeis)ジャッジ・マック(Judge Mack)及びフェリックス・フランクフルター(Felix Frankfurters)の名前が挙げられて居る。これらの人々の世界戦争終了後に於ける活動は頗る興味あるものである。

ハードは又左の説を述べて居る「なお二人の猶太人の名前を挙げる必要がある、それはギュンツブルグ(という)男であって、勿論猶太人である、彼はバクマテッフ(Bakhmeteff)大使の露國大使館に於ける忠実なる館員で、今一人は露國通信事務長官として新聞にもしばしばその名前の掲載されているエイ・ジェイ・サック(A.J. Sack)である」と。

猶太問題存在の事実

以上は如何に見るも決して完全なる猶太人名簿と言うことは出来ないが、併しながら兎に角頗る興味あるものである。ハードが軽蔑的に殆ど無価値であると述べようと欲した文書に却って重要な価値がある。吾人がここにハードの所説を逐一子細に検討した所以は、啻に(ただに)ハードが述べた事実を観察するに止まらず、なお他の驚くべき事実を発見したが為である。

この文書が猶太問題を捏造したものではない、若し猶太問題なるものが、実際に存在しなかったならば、何故ハードが此の問題を論説する必要があろう、又メトロポリタン紙が之を掲載する必要があろう。

ハード氏の功績は、世人が予期しなかった所に猶太問題が現存し、且つ之を闡明する要あるを確証したにある。「猶太人の大陰謀」と言う論文を書かせた所の人は、必ずやこれに対する必要を感じたが為であろう。

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